Minstrel☆Sanctuary

浮遊感

春の雪かもめのやうな浮遊感
赤い靴はいて色なき風の中
秋の水遠くなるほど眩しくて
浅き夢ばかりに醒めて熱帯魚
葦を焼くには葦の角おびただし

思ひつく限りの嘘を着膨れて
画集に挟む麦の穂とAIRMAIL
蒲生野の水と風とがひかりあふ
雁帰る水の底まで明るくて
寒餅のふくらむヨハネ黙示録

金星に寄る木星の余寒かな
毛糸帽目深のままの旅はじまる
香水を買ふクリムトの男かな
衣更抱きしめられるのはひとり
湖を出る川一本の暮春かな

祭列の名のある橋を渡り初む
さへづりや洗ひし筆に色残り
島影のふいに大きく種おろし
修正インクかたかたシベリア寒気団
泰西名画の中へするりと竈猫

沈黙といふ音のあり雪の山
摘草に出てゆきさうな土雛
どの雲も羽ばたいてゐる神の旅
団栗の落ちてくるとき向かう見ず
にほどりの湖底に倦めば漂へり

温みたる水にポスターカラー溶く
根の国へ人形代の流れ着く
乗り換へて海の日の海匂ひ出す
野を焼いて横恋慕は神代より
はこべらの野を校庭と呼んでゐる

畑打つておもての乾く湖の国
薔薇切つて隣の薔薇を散らしをり
パラソルに翼の生えてくる水辺
ハンモック真犯人がまだ見えず
人麿忌さざ波の立つ水たまり

雛過ぎの生まるるものに波頭
百葉箱のまはりの草をむしりをり
比良八荒みづうみへ向く方位針
ふらここをひよいと飛び下り反抗期
蛇衣を脱ぐ耐へられぬ軽さゆゑ

返事まだ出さず青きを踏んでをり
ポケットに海幸彦の竜の玉
牡丹雪ささいなことが知りたくて
ほととぎす流れの底の白い石
まつすぐに恋白靴を下ろしけり

水草生ふすでにたゆたひはじめたり
水口のごぼごぼ祭来たりけり
麦の秋行き先告げず旅に出て
もう少し隠れるための春の森
啼きつづけゐて鶯の老いにけり




 俳句現代 2月号 俳句現代賞佳作第一席  2000
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by minstrel1209 | 2007-01-23 11:51 | poem