Minstrel☆Sanctuary

カテゴリ:poem( 134 )

medusa


畦焼きの炎二手に分かれけり

機小屋の音といふ音春の雪

その水に空あり雛流しけり

雪解音橇に赤子の眠りゐる

蛇穴を出てメドゥーサの髪となる




俳句現代 5月号 2000  特集
[PR]
by minstrel1209 | 2007-02-18 21:07 | poem

ロダンの掌


永き日のなにも摑まぬロダンの掌
まつすぐな木に架けてゆく巣箱かな
絵の中の渚を受験子と歩く
ひとつぶのかなしみとして蝌蚪生るる
ヨットには女の名前雁帰る

抽斗の奥の水晶卒業す
鳥容れて春の夕べの木となりぬ
タイムカプセル埋めしあたりの春の泥
末黒野といふ寄る邊なきものを踏む
ヒヤシンスの白い根受胎告知の日

雛すぎの蔵の奥処の一面鏡
身の内をさくらで満たし篭りゐる
ダイヤルの繋がるまでの花疲れ
蜘蛛の囲にして大まかな編み目かな
朴の花謡ひはじめはひとりなり

海鳴りがして香水の封を切る
ががんぼのうしろ脚より梅雨兆す
洗ひ髪羽づくろふごとくうづくまり
廃船やくれなゐの星涼しくて
足あとのひとつは仔鹿まほろばの

無造作に脱いで晩夏の救命具
海はまだ蜩の木の先にある
宙動きりんだうの青深まりぬ
繋がれてヨットの軋む秋彼岸
岸壁に秋思の脚を垂らしをり

籠抜けをして色鳥と呼ばれたる
秋霖の海にもつとも寄る木椅子
きちきちばつた心の奥に弦を張り
帰燕かなヨットを洗ふ音がして
藤の実鳴らす空を明るくするために

鳥渡りけり舟底を高く揚げ
信長が塔を持ち去り木の実落つ
蟷螂の斧の途方に暮れてをり
踏みさうになつて野菊の透明感
柚子畠のすでに尽きたる融雪剤

海の絵を見に着ぶくれて来てゐたり
日短かになる遠目鏡欲しくなる
レノン忌の舵を大きく廻しけり
行間のやうに障子の白さかな
討ち入りの日の目覚ましを鳴らしゐる

かまきりの卵まるごと冬景色
ひと口ほどの人魚の肉を喰らひ雪
浮寝鳥影といふもの無かりけり
武者溜り在りし辺りを襟立てて
人間が近づいてきて浮巣枯るる

冬麗とはこんな日の躙り口
すなめりを狩るまなざしとなつてゐし
荒れてゐて鳴らざる海を初夢に
懐手してハムレット気取りかな
白鳥の田に降りてくる阪神忌




俳句界5月号 第6回俳句界賞受賞 2004
[PR]
by minstrel1209 | 2007-02-12 09:48 | poem

浮遊感

春の雪かもめのやうな浮遊感
赤い靴はいて色なき風の中
秋の水遠くなるほど眩しくて
浅き夢ばかりに醒めて熱帯魚
葦を焼くには葦の角おびただし

思ひつく限りの嘘を着膨れて
画集に挟む麦の穂とAIRMAIL
蒲生野の水と風とがひかりあふ
雁帰る水の底まで明るくて
寒餅のふくらむヨハネ黙示録

金星に寄る木星の余寒かな
毛糸帽目深のままの旅はじまる
香水を買ふクリムトの男かな
衣更抱きしめられるのはひとり
湖を出る川一本の暮春かな

祭列の名のある橋を渡り初む
さへづりや洗ひし筆に色残り
島影のふいに大きく種おろし
修正インクかたかたシベリア寒気団
泰西名画の中へするりと竈猫

沈黙といふ音のあり雪の山
摘草に出てゆきさうな土雛
どの雲も羽ばたいてゐる神の旅
団栗の落ちてくるとき向かう見ず
にほどりの湖底に倦めば漂へり

温みたる水にポスターカラー溶く
根の国へ人形代の流れ着く
乗り換へて海の日の海匂ひ出す
野を焼いて横恋慕は神代より
はこべらの野を校庭と呼んでゐる

畑打つておもての乾く湖の国
薔薇切つて隣の薔薇を散らしをり
パラソルに翼の生えてくる水辺
ハンモック真犯人がまだ見えず
人麿忌さざ波の立つ水たまり

雛過ぎの生まるるものに波頭
百葉箱のまはりの草をむしりをり
比良八荒みづうみへ向く方位針
ふらここをひよいと飛び下り反抗期
蛇衣を脱ぐ耐へられぬ軽さゆゑ

返事まだ出さず青きを踏んでをり
ポケットに海幸彦の竜の玉
牡丹雪ささいなことが知りたくて
ほととぎす流れの底の白い石
まつすぐに恋白靴を下ろしけり

水草生ふすでにたゆたひはじめたり
水口のごぼごぼ祭来たりけり
麦の秋行き先告げず旅に出て
もう少し隠れるための春の森
啼きつづけゐて鶯の老いにけり




 俳句現代 2月号 俳句現代賞佳作第一席  2000
[PR]
by minstrel1209 | 2007-01-23 11:51 | poem

未来



屈みをり山りんだうに染まるまで

空湛ふゆゑに白鳥来たりけり

見えてゐて見えぬ案山子の振りをせり

大綿の掌に乗る未来かな

火を焚けばモディリアーニの裸婦のこと

降りそそぐものをそのまま浮寝鳥

風邪ごゑの花びらほどくやうに癒ゆ



俳句 12月号 2005
[PR]
by minstrel1209 | 2007-01-20 11:22 | poem