Minstrel☆Sanctuary

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迷宮の夢は終わらない Inception



夢=潜在意識へ入り込んで アイディアを盗むSFアクションを軸に 
もうひとつの鍵となる物語が 重層的に進行 
いつのまにか 誰かが見ている夢の 迷宮の奥へ奥へ降りてゆく 

エレベーターのシーン ある階で蛇腹が開くと まばゆい海辺
これは わたしの見た夢に限りなく近くて。。オドロキマシタ。 
夢を見ているときは 夢だと気づかない 夢を生きているから 
だけど その奇異さに 少しずつ違和感を覚えはじめる

一旦 夢に入り込んでしまうと 人は究極の夢へシフトしたくなる 
崩壊を予感しながら 醒めない夢に 焦がれてしまう 
これは 仮想世界を装ったラブストーリー 再生と愛の物語 
たとえ 夢の中であっても 最後に決断するのは自分自身なんだ
 
独楽は 平衡を失うと 突然止まる それは いつ?
夢かリアルかをジャッジする小さな独楽は 廻り続けて
ラストカット 彼の独楽の止まる音が 微かに聴こえた
聴きたかったから そんな気がしただけかもしれない でもね
きっと 止まったと信じたいよ コブ^^* コブは 物語の主人公

夢の世界を構築する設計士の名前が アリアドネ
むかしむかしの胡蝶の夢というお話を ふと思い出した

 
映画 インセプション  Inception
監督脚本は  クリストファー・ノーラン
夢を盗むスパイに レオナルド・ディカプリオ 
依頼主に 渡辺謙  共演陣も 素晴らしい 
音楽 ハンス・ジマー  シビレマシタ。。☆









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Rayograph









*
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by minstrel1209 | 2010-08-21 20:37 | review

ビューティフル アイランズ

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風のある朝
ふっと思い立って
京都シネマへ


海岸線がさらわれてゆく島 ツバル 
水の都ヴェネチアの高潮警報  
アラスカの永久凍土が解ける

嵐のたびに 湧き上がり押し寄せる水への畏怖
水は いのちの源だけど いのちを暮らしを脅かす

いつか遠い未来に この星も消えゆく運命なんだけれど
もしも あした 自身の踏みしめていた居場所がなくなったら

氷の海で狩ができなくなり ココヤシの木は水葬となる
代々のゴンドラを継ぐことは。。 アイデンティティーの喪失
それは 誇りを 人としての尊厳を失うこと

島の古老は語る
神さまは ノアのときのように きっと助けて下さる
若者は言う
沈むなんて 信じない だって ここが故郷なんだもの


映像は 語らない 
詩のような 一葉の忘れられない写真のようで
ビューティフル アイランズのひとつひとつは 
この星の未来の姿かもしれない
知ることから はじめよう その一歩を きょうから










公式サイトは こちらから
ビューティフル アイランズ









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by minstrel1209 | 2010-08-10 12:55 | review

空の記憶 The Sheltering Sky




青い空は 底なしの闇から
恋人たちをシェルターのように守ってくれる
ほんとうに?

男の名はポート 彼は信じたいのだ
女の名はキット 彼女は疑ってる
不幸とか幸とか
そもそも そんな枠組みから はみ出してる ふたり

この光景を 君と交感したい だからって 砂漠へ旅するの?
あの熱砂と砂嵐の国へ しかも 船 大きなトランク
ツーリストではなく トラベラーとして 
世界を覆う 虚無の闇 それが 宇宙の真実
退屈だな すべてが 

予兆に慄く女 永劫が染み込んだ男
愛してるのに すれ違ってしまう 
彼はアンバー 彼女はブルー

夜から朝へ向かう砂漠の姿態
ぽつんと浮かぶように漂うのは ポートとキット 
太陽と月だね まるで

狂言回しのタナーは 迷惑がられたり 重宝されたり
だけど 憎めない男 彼も彷徨ってる
3人に絡んでくる親子の あまりに世俗的な醜悪さ奇怪さ
舞台は 1947年という時代の北アフリカ
それらが 攪拌されて 
ふたりの絶望と孤独は 一層浮き彫りになる 
太陽でも月でもなく 彼らは 砂漠そのものなのかもしれない

愛した記憶 愛された思い出
すべてを呑み込んで 砂漠に朝が訪れる
人は 忘れるから生きられるというけれど それは違うな
忘れない決して 記憶の抽斗に そっと仕舞われるだけ
仕舞われた記憶が 地層のように幾重にも降り積もってゆく
  
キットが ひとり辿り着くあの港町のラストシーン
カフェで待っていたのは 不思議な目の老人
空の青 海の蒼 そんな深いふかいアオ 揺らめくアオ

迷ってしまったんだね
そう 迷子なんだよ 誰もが









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シェルタリング・スカイ 1990年 英国
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by minstrel1209 | 2010-06-26 13:41 | review

モダンタイムス

【人に逢えるのはね 生きている間だけだよ】


あのフシギなひかりを放っていた
【魔王】の続編
だけど これは まったく新しい物語


【検索から 監視が始まる】
こんな 刺激的な帯 


彼らしい 格言 のようなコトバ

【人生は要約できない】

ぁ それ わかる。。
大事なことは 
決して まとめられないから
うん
まとめられたくなんか ないよね^^*


【人生が大きく変わらなくても
小さな行動や会話のひとつひとつが
大事な部分なんです】

ささいな だけど
タイセツな刹那が降り積もって
生きている時間は 豊かなものになる


彼の不朽の名作
【ゴールデンスランバー】の
合せ鏡となりながら
いつか オオタカの舞う
原野へとつながってゆく浮遊感


そうして
期待通り
彼のメッセージは 
物語の中に 潜んでいた。。


人は 何を見ているのか
つまり
こうだと思い込んでいたことが
ちょっと 踏み込んで
角度を変えてみるだけで
ちがった光景になりうる

自ら考えることをやめたら
オワリ 
情報なんかに 流されるな
事実ではなく 真実を見極めよ
そうだよね 伊坂クン


あの直木賞辞退の真実が
やはり
そっと 隠されていて。。

なぜ書くのか という問い

たったひとりの
読者に向けて書く
それで いいんだ 
カオスから
解放された彼のコトバは
ストレートに 響くなぁ






モダンタイムス 伊坂 幸太郎 mixi review 2008.12.







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更新しました^^*
MINSTREL LYRIC
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by minstrel1209 | 2010-01-25 12:16 | review

夢想

オディロン・ルドン
百年の時を隔てて出逢う 黒のルドン


いままで
ルドンと言えば 青
そして 紫 赤 黄
ギリシア神話
中でも 
印象的なオルフェウス

だけど
彼の本質は 黒だった
そんな衝撃

リトグラフ 素描 パステル



お気に入りは

ベアトリーチェ    カラーリトグラフ  シーヌ・アプリケ
やや俯き加減の横顔
淡いレモンイエローのシルエット
どうしたら こんな優しい色合いになるんだろ
リトグラフから 音色を感じたのは はじめてかも
すべてが
彼女の永遠性を 象徴しているようで


 
       リトグラフ  シーヌ・アプリケ
繊細な樹のライン
ラフに描かれたペン画のようなタッチ 
和紙の風合は やわらかだ
樹だけが ぽつんと立っている そんな光景
なんにもない けれど そこには なにもかもある
孤独なんだけど ある種の幸福感に満ちていて
わたしも こういう俳句や歌を詠みたいな。。**



夢想     リトグラフ
窓辺から見えるのは ひかりの樹
これは 夢に顕れた あの樹だろうか 
闇のような室内に 浮遊するタマシイ。。○ 
まるで モノクロームの心象写真を
見ているような 至上の静穏
 


薔薇色の岩     油彩
彼の原風景のひとつ
小品だけど
気品があって
ココロの奥に   
タイセツに仕舞っておきたくなる
そんな 海辺の叙景



蜘蛛    リトグラフ
はじめに 闇があったのか 
いつのまにか 浮かぶように顕れる蜘蛛
だけど よく見ると
蜘蛛のカラダの中に 
多重露光で重ねたような貌 なんてユーモラス^^@
ちょっと マックロクロスケ似^^*
この蜘蛛を包む空間は いったい なんだろう
やわらかそうな大気 つい 触ってみたくなる^^
こういう余白のあしらいは 日本画の世界に通じるかも







私の描いた例の哀しい顔は この故郷で得たものだ
あれは 眼で見たものを描いたのだから
子供の眼で見て
私の魂の奥の共鳴りの中に 保存されてきたものだから   

Odilon Redon 1840-1916






  

博識で 多彩
けれど それだけじゃない  
洞察力と 想像力
これって 人をシアワセにするチカラがある うん^^v
心象と象徴と
いま 俳句で目指したい表現とシンクロ^^♪



彼の生涯を 年譜で振り返る
口答試験で落ちたとか 母に捨てられた少年??
きっと
ここに 書かれていない 見えないところ 
作品の余白に 刻まれた一本の線に
彼自身の生きていた証が 詰まってるんだろうな
その耀きと闇に触れた ひととき


あなたは どんなルドンが お好き?








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Camera Nikon D80
Lens by Tamron 18-270mm
*
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by minstrel1209 | 2009-09-01 20:30 | review

アヒルと鴨のコインロッカー  2007

原作 伊坂幸太郎 最高~☆
だから 
躊躇

モノローグ&ナレーション皆無
だから 
なのか

神さまを閉じ込めたコインロッカー
今も 
ディランをエンドレス

なにか ドキドキしてて
どこか キラキラしてて 

原作の空気が そのまま
噛み合わない 会話
つながってる こころ
 
ディラン?
瑛太が 椎名に声をかける2度目のカット

自分で書いた物語なのに
このシーンで 切なくなる伊坂幸太郎って
かなり好き♪

人は ひとりぼっち
だけど
伝えていける
そんな シネマ

今年のベスト
どころか
Myベストになりそうな 予感




2007.7.31. mixi review





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More 人生を変えるほどの切なさが、ここにある。
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by minstrel1209 | 2009-06-07 13:46 | review

永遠の一瞬  ギリシア神話の彼方に

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星めぐりの歌     宮沢賢治 

あかいめだまのさそり  ひろげた鷲のつばさ
あをいめだまの小いぬ  ひかりのへびのとぐろ
オリオンは高くうたひ  つゆとしもとをおとす
アンドロメダのくもは  さかなのくちのかたち
大ぐまのあしをきたに  五つのばしたところ
小熊のひたひのうへは  そらのめぐりのめあて


満天の星を見上げるとき、あなたは、どんな想いを抱きますか。賢治の詩をふと口ずさむ。そうして、いつしか混沌の宇宙へ放り出された切なさで、胸がいっぱいになる。あるいは、根源的な存在の孤独を噛みしめて、内省。それとも、不確かな身を、星空が抱きとめてくれると感じるのだろうか。手鏡が、人の温みで、やわらかく目覚めるように。


息かけて覚ます手鏡天の川  角川照子


古来、人は、星を眺めて、暦を思いついたり、未来を占ったり。光年の彼方にある星と星を繋いで、壮大な神々の物語を天空に紡いできた。
星と聴いて真っ先にひらめくのは、ギリシア神話。深く根を張り、ときどき貌を出す。恋や悪戯を仕掛け、妬み、嘆く。そんな人間味のある素朴な神々が登場する。その譚海の中から星に纏わるストーリーをいくつか紐解いてみよう。


 少年のたてがみそよぐ銀河の橇  寺山修司


掲句、どこか神話めいた仕立て。たてがみの少年は 作者自身だろうか。はじめに、冬の星座アンドロメダ。母カシオペアの驕りが禍して、神々の怒りを買う。娘のアンドロメダは、岸壁の鎖に縛られて、海の怪物の生贄に。だが、危機一髪、空を飛んできたペルセウスに救われる。寓話的活劇ラブロマン。


天の川鷹は飼はれて眠りをり  加藤楸邨


揚句、轟く天の川の下、飼われても孤高の鷹の眠りは、果てない。ペルセウスの倒したメデューサの血から天馬ぺガソスが生まれる不思議。欺瞞のカオスから真実への目の覚めるような変容。聖なるものは、清濁を内包するのか。神話とは、ドラマティックで深遠。カシオペア、アンドロメダ、ペルセウス、ペガソス、すべて秋から冬の星座として夜空に集う。


寒昴鉛筆書きの妹の遺書  角川春樹

    
プレアデス星団は、ペルセウスとオリオンに挟まれている。神話では天を担ぐアトラスの七姉妹。和名、昴=統ばるは、集まって一つになるという意味。掲句の鉛筆書きに、早すぎる死を憶う。星は命が生まれさざめき、いつか魂の辿り着くところ。
凍てついた空に狩人オリオンは、旅人を守って煌く。一方、天の狼シリウスは、彼の猟犬。ギリシアの吟遊詩人ホメロスは、叙事詩『イリアス』の中で、こう語る。鍛冶の神がアキレウスのために盾を鍛えるとき、そこに、太陽、月、オリオン座、昴、大熊座、名のある全ての星を刻む。天空の熊は、暴れん坊オリオンを常に窺っているらしい。ホメロスのまなざしは、星座を動かないものではなく、アニメーションのように活き活きと映し出す。掲句も静の中の動。宇宙の一角を占める狩人への憧憬が滲む。


凍雲をオリオンのまた一つ出し    篠原梵


北斗七星を含む春の星座の象徴、大熊座の物語は、波乱万丈。オリンポスの神ゼウスの横恋慕、その妻ヘラの嫉妬。ゼウスに誘惑される乙女カリスト。身籠ったカリストは、彼女が慕い仕える女神アルテミスの怒りから、熊の姿に変えられる。だが、人としての感情を失わず、森を彷徨う。母と知らず出逢った息子に矢を射かけられ、ゼウスは彼女を星に。天空に掲げれば、すべてがリセットされるのか。否、ヘラの心は、沼のように重い。次に揚げるランボーの詩『わが放浪』は、中原中也の訳。

  
私は出掛けた、手をポケットに突っ込んで。半外套は申し分なし。私は歩いた、夜天の下を、ミーズよ、私は忠僕でした。さても私の夢みた愛の、なんと壮観だったこと!独特の、わがズボンには穴が開いてた。小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻ってた。わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々はやさしくささやきささやいていた。そのささやきを路傍に、腰を下ろして聴いていた。ああかの九月の宵々よ、酒かとばかり 額には、露の滴を感じてた。幻想的な物影の、中で韻をば踏んでいた、擦り剥げた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、 竪琴みたいに弾きながら。


蠍座。晩夏の夕べ、地平近く南中するS字形の星座。蠍の心臓アンタレス。前述のオリオンを刺した真紅が空に滴る。大火とはアンタレスの漢名。李白の詩は、蠍の尾に素秋の感慨を込める。


太原(たいげん)の早秋(そうしゅう)           李白
歳落ちて衆(しゅう)芳(ほう)歇(や)み
時は大火(たいか)の流るるに当り
霜(そう)威(い)塞(とりで)を出でて早く
雲(うん)色(しょく)河を渡って秋なり  (後略)


琴座。リラと呼ばれる竪琴。それは、太陽神アポロンがオルペウスに与えた弦楽器である。オルペウスが触れるとき、竪琴は、木々を抜ける風のような音を奏でただろう。
楽人オルペウスは、蛇に咬まれて死んだ妻エウリディケの棲む冥府へと、はるばる降りてゆき、連れ帰ろうとする。決して姿を見てはならない約束。けれど、虚ろな影のような妻の様子が気がかりで、つい振り返ってしまう。日本のイザナギイザナミの黄泉比良坂に照応する劇的シーン。愛の深さゆえの脆さ。愛する人を永遠に失って嘆きつづけ、現実を直視することができないオルペウスの闇は深い。
果たして彼は、嫉妬した巫女たちに、ばらばらにされてしまう。モローやルドンの絵のままに、彼の首は竪琴と一体になって流される。主を失い、誰も触れない竪琴。だが、その響きは、生きものばかりか小石までも魅了する。オルペウスの魂の昇華した竪琴リラ。これが琴座となって、白鳥座の西に輝く。七夕の織女ベガを含む四つ星。ベガは夏から秋の天のもっとも明るい星である。


女一人佇てり銀河を渉るべく   三橋鷹女


銀河は、何かを決意させる力を秘めている。掲句、踏み出そうとする緊張と清々しいまでの志。
二十一世紀の都市で、煙るような天の川を見なくなって久しい。神話では、赤ん坊ヘラクレスがあまりに強く母ヘラの乳房を吸ったため、空に飛んだ乳が天の川になったという。血の熱さを持つ乳の迸りに、ヘラの母性と逞しさを感じるエピソード。 
星の導くまま、神話に纏わる物語を読み解いてきた。星や花への変身譚は、煌く生命を永遠に封印したい、そんな願いを象徴するのだろうか。究極のところ、神話は、死と再生の物語である。ギリシアの死生観は、碧玉の海原のように鮮烈。野良猫の暮らす白い漆喰の路地は、光も影も濃い。市場の柘榴売の目は、ソクラテスの沈思を帯びる。だが、彼の乾いた大きな手は、限りなく温かい。


 星飛ぶや掌の中の手のやはらかく   不破博


本来、離れ離れの星々が、人の感受で一つの座に結ばれる。そんな危うい邂逅の中で、遙かの物語と詩歌は、星の瞬きのように呼び合っている。


七夕や髪濡れしまま人に逢ふ  橋本多佳子

 
ふと、こんな恋に憧れる。逢瀬の渇きとときめき。生の歓びと儚さが、流れ星のごとく交錯する。
星の顕れはじめる夕空を、ブルーモーメントと呼ぶ。透明で清澄な青い時間軸。その遙かな青は、ひとりぼっちの心を満たしつつ、夜の海原を静かに渉ってゆく。最後に、神話の終章に相応しい叙事詩のような歌を一つ。


天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ                 柿本人麻呂




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俳句界 7月号 2008 
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by minstrel1209 | 2008-07-15 23:14 | review

昼過ぎのシーツを泳ぐ金魚かな  春樹


ふと、マティスの金魚を想起させる。

滴る赤、透く緑。

硝子を通して閃く炎昼の影がシーツに泳ぎ、

ボサノバ的気怠さを漂わす。

浮游する金魚こそ、エロスとタナトスの象徴だ。

作者の魂の在処が、時空を揺らぎはじめる刹那。
            




河7月号 一句鑑賞 2008.7




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by minstrel1209 | 2008-07-13 21:12 | review

はつなつ


ロダンの首泰山木は花得たり          角川源義


2003年3月、大阪梅田で「ロダン展」が開催された。折しも世界は非難轟々のままイラク戦に突入。かつて誰もが感じたことのないほどの無力感に侵されていたころ。何か出来ることがないのだろうかと『考える人』と共に煩悶し、エイリアンのごとき『カレーの市民』達から「それで、おまえはどうなのだ」と詰め寄られ、責められ、このまたたきの間にも戦いの犠牲になっていく人々の傷みを思いつつ、『ダナイード』の悲嘆をただ嘆くことしかできない非力。自分の身体が自分のものではないくらいもどかしい。かの地から飛来する黄沙がひたすら息苦しく、春の訪れを率直に喜ぶことなどできない。

 為す術もなく辿り着いたのは『シュゾン』と呼ばれる少女と見紛う女の頭部。ひとめで心を奪われた。彼女の無垢の目が見つめるのはいったい何。この作品に出遭った瞬間、源義先生の一句が流星のごとく時空を超えて心に飛び込んできた。切れば血の滴るような作品として。
イラク戦が唐突に終結を宣言、全く心の整理のつかない初夏、遊歩道の泰山木がまさに花を得た。白を極めた白磁に漂う透明感。ときに誇り高い香りを放つ小径に佇み、先生の一句を幾度も唱えながら逍遙していると、ロダンが作品に生命を吹き込もうとした灼熱の工房さえ見えてくる。神に近く、民に近いロダン。ロダンこそが孤高の泰山木に相応しいと確信できる。源義先生のお導きで、遙かな泰山木に一歩近づけただろうか。





河10月号   角川源義一句鑑賞  2003




角川源義 1917-1975  角川書店創業者
 「抒情の恢復」「一本の緑樹の見事な成長を夢見」て
 昭和33年12月俳誌『河』創刊 
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by minstrel1209 | 2007-05-06 10:41 | review

ほんものの翼



春逝きてしばらく春のとどまれり 角川春樹

 この一編の詩とも調べとも感じられる俳句に遭遇したときのときめきは、今も鮮明な記憶として わたしの心のディスクに保存されている。真っ白な清記用紙の中の五・七・五の極小の世界。けれど、そこから紡ぎ出される心のゆらぎは、まさに去ってゆく春という季節への煌めくばかりの惜別に充ちている。獄中は最大の行だったと語る作者の豊饒の時間がゆるやかに香りたつ。


わが生は阿修羅に似たり曼珠沙華
敗れざる者歳月に火を焚けり

 ずっと天才の苦悩ということを考え続けていた。ゴッホ然り、信長然り。彼らの輝きは星雲と彗星ほどに異なる。心の叫びもまた計り知れない。<敗れざる者>角川春樹は、こう語る。怒りはあっても恨み妬みはないと。なぜなら、憤りには前向きのパワーがあるが、嫉妬はなにも生み出さないから。


十字架のイエスもわれも冬の中

 一瞬、モロー描く荒野のキリストを連想した。永遠に朝の来ない月光の闇を背景に、闇よりも濃い一本のオリーブの木。その十字架のようなシルエットの根元に横たわる一人の男。その淵には、紛れもない人間イエスの絶望と、神の子の使命感という名の孤独が明滅する。
 

イカロスのごとく地に落つ晩夏光

少年イカロスの翼は哀しいことに蠟で固めた羽根だった。彼の父ダイダロスは告げる。「あまり低く飛ぶと海のしぶきで翼が重くなるし、あまり高く飛ぶと太陽の熱で翼が溶けてしまうから」と。翼を失ったイカロスの傷みが夏の終わりの光の中に突き刺さる。


そこにあるすすきが遠し檻の中

 この一句ほど獄中の作者の胸中を象徴し暗示するものはないだろう。悲歎、無念、慟哭、憧憬、あらゆる想いがほとばしり渦巻いて、心がちぎれそうに切なくなる。


極寒の星より人の堕ちにけり

 この星は、神の蠍に襲われたという狩人オリオンの青ざめた燐光なのかもしれない。天からまっすぐ堕ちてくる叫びさえ凍てつく夜。


秋螢闇より黒き手が摑む

 悪夢のごときブラックホールの真闇。底知れぬ怖さが迫る。肉体も精神もぎりぎりのところまで追い込まれた息詰まる刹那。
 「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ」カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川のひととこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。
         宮澤賢治『銀河鉄道の夜』


たましひのはたしてあそぶ枯野かな

 一転、枯野の天上の草原のごとく、透きとおったこの明るさはどうだろう。すべてが潔く枯れ果てて、もう枯れる一本の草とてどこにもない。なのに、まことに喉の渇きは癒され、どこまでも澄みきっている。流れてきてはまた流れていく光のシンフォニー。


うつくしき冬空なりし鉄格子

 春樹先生からご指導いただく折々に感じること。それは一番に純粋性。それもとことん。磨きたてのダイヤモンド。スミソニアン博物館ですら所有し得ないほどの大きくて無垢な。冬の鉄格子からナイフで切り取った真青な空は、バッハのアリアのように潔癖。


一昨日の雪まだ消えず西行忌

 人間としての純粋さと師としての繊細かつ温かいまなざしの前に、ちっぽけな疑問や葛藤は春の雪のように解け去ってしまう。心が浄化されていく不可思議。このきさらぎの西行の消え残る雪に、ぬくもりを感じるのはわたしだけだろうか。


獄を出て時雨の中を帰りけり

 この日の時雨を作者はきっと忘れない。時雨という日本語の美しさにさりげなく込められた万感が胸を打つ。


雪となる雨を見てをり実朝忌

 承久元年、公暁によって暗殺された源実朝に対する作者の思い入れはことさら深い。やがて雪へ変わろうとする冷たい雨が、おそらくは海に降りしきっているのだろう。悲劇の生涯への共感がひたひたと打ち寄せる。


笹鳴と思えしこゑを実朝忌

 同じ実朝への傾斜ながら、獄を出てからの作品。笹鳴の明るい日だまりが零れる。


初さくらいつか遠くで君に逢ふ
桐の花しづかに坂の暮れゆけり

 存在が大きければ大きいほど、月日の巡りにつれて悲しみが深まってゆく人の死。花は変わらず咲き継ぐけれど、今年と同じその花にはもう二度と逢えない。流れゆく水に、いのちあるものすべての営みに気づいてしまったら。だから、たった一枝の初々しいさくらに、夕暮れの桐の木に、限りなく温かいまなざしを注がずにはいられない。


釈迦牟尼の足裏に夏の来たりけり
わが肩を蜘蛛に貸したる檻の中

 <檻>の中という想像を絶する行の果てに辿り着いた境地。瞬きを永遠のタペストリーへ織り上げて、解き放たれる魂の行方は。空の奥には何がある。星の奥には何がある。山の奥には櫻の木。蠟で固めた仮の翼ではなく、本物の天馬の翼を羽ばたかせて、俳人角川春樹のはるかな飛翔の響きが聴こえる。


一本の木がありそこに春があり
ひとり来てふたりとなりし春の暮 

                          


河 4月号  角川春樹句集『檻』鑑賞  1996
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by minstrel1209 | 2007-03-08 16:09 | review