Minstrel☆Sanctuary

カテゴリ:essay( 6 )

恋するイチガン




 響く光景に出逢ったとき、心のシャッターを切る。 一瞬の切り取りに想いを託す。 写真も俳句も、これは変わらない。

 どちらも一度きりのかけがえのない出逢い。 写真は刹那。捉えたい光は、ミラージュのように、消え去ってしまう。 だが、俳句には想いを熟成させる時間がある。 言葉にできず、感動を仕舞う抽斗。 そこから、句は巣立ってゆく。 

 俳句はわたしのサンクチュアリ、写真は純粋な楽しみ。 そう思っていた。 ところが、昨秋、一眼レフに変えて以来、すっかり写真の虜に。 吟行の傍らには、目下の恋人NikonD80。 撮りたいイメージを描きながら、光と戯れる。 それは、極上の悦楽。 弊害その一。 写真に夢中になると、俳句の神さまが降りて来ない。 対策その一。 ある程度、撮影してから、俳句の料理にとりかかる。
撮った写真を選ぶとき、俳句の自選に近い感覚が甦る。 目で見たものと画像の違いに驚き、魅了される。 カメラ独自の光の粒子。 たとえば、そんな心象風景を俳句に変換できたら。 これは、ひとつの野望。 

 写真は、性能のいいレンズやカメラ本体が写し撮っている画像に過ぎない。 それなら、わたしの撮る写真とは何だろう。 けれど、ある日、この過ちに気づいた。 俳句も、一から生み出すものではない。 先人たちが慈しみ、歴史の流れに磨かれた季語という言葉の力を借りる。 季語を縦糸、想いを横糸に、たんねんに言の葉を紡いでいく。

 2年前、体調を壊して休職冬眠。 気分転換に、日々カメラ散歩と称して、近くの森を歩きはじめた。 まずは、デジタルの操作を覚えよう。 触ってみる。 試してみる。 冬麗の光が、被写体の輪郭を象る刹那。 写真の面白さに目覚めたのは、そんなときだったかもしれない。

 春を待つレンズの向こうで、桜の芽が少しずつ膨らんでゆく。 健気、強靭。生きようとするいのちの力を見つめていると、元気になろう、また、大好きな仕事に復帰したい。 心からそう感じることができた。

 俳句はアングルのヴァイオリン。 だけど、写真に触れることで、そのスタンスを見つめ直す。 俳句はときめき。 憧れを見失わないように。 写真はミラクル。 レンズを通した世界の発見が、俳句や評論にいい影響を及ぼしてくれたら、それは素敵なことに違いないから。


             竜の玉 約束のまだ果たされず    久美子




                                             電通 一粒 12月号  2008.12.









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by minstrel1209 | 2011-02-01 16:50 | essay

恋するイチガン


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響く光景に出逢ったとき、心のシャッターを切る。 一瞬の切り取りに想いを託す。 写真も俳句も、これは変わらない。

どちらも一度きりのかけがえのない出逢い。 写真は刹那。捉えたい光は、ミラージュのように、消え去ってしまう。 だが、俳句には想いを熟成させる時間がある。 言葉にできず、感動を仕舞う抽斗。 そこから、句は巣立ってゆく。 

俳句はわたしのサンクチュアリ、写真は純粋な楽しみ。 そう思っていた。 ところが、昨秋、一眼レフに変えて以来、すっかり写真の虜に。 吟行の傍らには、目下の恋人NikonD80。 撮りたいイメージを描きながら、光と戯れる。 それは、極上の悦楽。 弊害その一。 写真に夢中になると、俳句の神さまが降りて来ない。 対策その一。 ある程度、撮影してから、俳句の料理にとりかかる。
撮った写真を選ぶとき、俳句の自選に近い感覚が甦る。 目で見たものと画像の違いに驚き、魅了される。 カメラ独自の光の粒子。 たとえば、そんな心象風景を俳句に変換できたら。 これは、ひとつの野望。 

写真は、性能のいいレンズやカメラ本体が写し撮っている画像に過ぎない。 それなら、わたしの撮る写真とは何だろう。 けれど、ある日、この過ちに気づいた。 俳句も、一から生み出すものではない。 先人たちが慈しみ、歴史の流れに磨かれた季語という言葉の力を借りる。 季語を縦糸、想いを横糸に、たんねんに言の葉を紡いでいく。

2年前、体調を壊して休職冬眠。 気分転換に、日々カメラ散歩と称して、近くの森を歩きはじめた。 まずは、デジタルの操作を覚えよう。 触ってみる。 試してみる。 冬麗の光が、被写体の輪郭を象る刹那。 写真の面白さに目覚めたのは、そんなときだったかもしれない。

春を待つレンズの向こうで、桜の芽が少しずつ膨らんでゆく。 健気、強靭。生きようとするいのちの力を見つめていると、元気になろう、また、大好きな仕事に復帰したい。 心からそう感じることができた。

俳句はアングルのヴァイオリン。 だけど、写真に触れることで、そのスタンスを見つめ直す。 俳句はときめき。 憧れを見失わないように。 写真はミラクル。 レンズを通した世界の発見が、俳句や評論にいい影響を及ぼしてくれたら、それは素敵なことに違いないから。


             竜の玉約束のまだ果たされず    久美子




一粒 12月号  2008.12.





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by minstrel1209 | 2008-12-18 06:57 | essay

まなざしのゆくえ



焚火して無傷の手足かざすなり       堺谷真人


火明りに照らされた作者の真摯なまなざしが浮かび上がる。阪神大震災三句と題された堺谷真人さんの作品の一。 
この体験を彼は短歌にも詠んでいる。辛いときだからこそ、希望をそして人への信頼を詠いたかったのだと。彼の言葉は今も清冽に響く。昨夏、奇しくも震災の地・神戸で何年振りかの再会。その日の日記より。『小磯良平記念館もアイランドも、時を経て、温か味のある島に育っていた。リーズガーデンの海が見える最高に眺めのいいお部屋。旧知のSさんに悩みを打ち明けたり…』頼り甲斐のあるSさんは、人物も作品もユーモアたっぷり。


人の世のまだ続くかと地虫出づ          真人


初めてお目にかかったのはいつだったろう。確か一九九三年早春、京都郊外、大原への吟行でと記憶している。若いけれど、水のような静寂を感じさせて、存在感のある人。これが彼の第一印象。以来、逢うたび、サジェスチョンを与えて下さり、いい意味で驚かせてくれる。


睡蓮にぶつかりて魚跳ねにけり          真人
塔消えてより千年の新樹光


世界を包み込むような初夏の樹々。まぼろしの塔は、その瑞々しい光の中に佇っている。広告代理店というお仕事柄、このあいだも撮影が長引いて、二時間ほどの睡眠で吟行に参加。だから、彼はその瞬間瞬間、真剣そのものだ。何に?もちろん、全身全霊で対象に挑むべき俳句に対して。俳句に向かうとき、素顔を彼は取り戻す。
  

殻虧けてででむしすこし無頼めく         真人


無頼の蝸牛に憧れが滲む。「ほら、こんなところに枯蟷螂ですよ」って、キラキラした瞳で。まるで大人になったハックルベリー・フィンじゃない? 緑蔭でかくれんぼの蓑虫、灼けた石の上に息をつく蜥蜴の子、第一発見者は、いつも彼。虫捕りに夢中な少年のピュア、これは出逢ったときから少しも変わらない。そんな木漏れ日のような彼を見つけることも、句友としての密かな愉しみである。


二人してグラスを選ぶ夏料理           真人
薄氷の罅をあふるゝ真水かな


この真水の透明感こそが彼の本質だ。明晰で堪能、博識で謙虚。琵琶湖のまだ奥に天女伝説の小さな湖がある。そこへ旅したときのこと。句会は夜に及び、クライマックスの袋回しスタート!全員が題を考え、それぞれの袋に百句までOKって…前代未聞。だが、彼はタイムリミットまで果敢に挑戦。その矜恃、集中。堺谷真人という作家を句敵として、本気で意識した瞬間だったかもしれない。


何屋とも知れぬ卸屋つちふれり          真人
競ふとは生きてゐること百千鳥


逡巡しない言葉は美しい。それ故、最新作のまなざしは、ひときわ澄んでいる。彼の職場句会の吟行に誘われて、霜月の永観堂、無鄰庵を逍遙する。お仕事の入った真人さんは、午後から一人途中退場。にも拘らず、悠々と冬紅葉の風情を愉しみ、カメラを廻し、冒頭のご挨拶。彩の懐石を済ませ、投句、選句をこなして梅田へ。その鮮やかさ、スーパーマン以上。しかも、高点賞を攫っていってしまった…。さてさて、今度の句会は、お目もじ叶うのだろうか。  


鵯哮ける日や元老の椅子ひとつ         真人
方丈や番の少女の膝毛布  






俳句研究4月号 2007   句友・句敵 
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by minstrel1209 | 2007-04-14 21:51 | essay

myth

否定しながら女は、無意識の内に
神話の怪物となったメドゥーサの哀しみを
今も引き摺っているのかもしれない。
ステレオタイプの呪縛を捨てて、
櫻姫ときには妖精パックのように
性を超えた変幻自在な俳句を愉しもう!



俳句現代5月号 2000 特集
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by minstrel1209 | 2007-02-18 21:04 | essay

記憶のメビウス

匂いは記憶を呼び醒ます。
岬の果てまで霞のヴェール。
静謐な渚。靴が濡れていく。
零れる砂のように櫻は匂いを放っている。

アカデミー賞ノミネートの勢いで傍聴した運命の公開選考会。
俳句界賞受賞という大きな夢が叶った。
想いを掬っていただける感動の一方、
想いを伝える為、煌めくいのちを込めなくてはと痛感。
選考に携わって頂いた先生方、
どんなときも信じ見守って下さる師、友、家族に心より感謝致します。

櫻がメビウスの眠りを解いてゆく。
清冽な香りに導かれ、また旅に出ようか。



俳句界5月号 第6回俳句界賞受賞の言葉   2004


選考委員   有馬朗人  大峯あきら  岡井隆  辻田克巳  松澤昭 (敬称略 五十音順)
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by minstrel1209 | 2007-02-16 17:33 | essay

風景の記憶

 
 人は何歳までの記憶を遡れるのだろう。硝子窓の向こうの鞦韆をじっと見つめる三歳の私。希望と不安に揺れている。いつか記憶の幻想は、世紀の果てへ流れ着く。そこには逃れようのない私自身がいる。ある日、届いたメールの封を切る。気分は弾ける木の実。「ママの状態、狂喜乱舞って言うの?」と娘。そんな四字熟語いつのまに、と動揺しつつ「そうかも…」と呟く。

 俳句は私のサンクチュアリ。俳句現代賞佳作をいただいた今、見慣れた森に皇帝の鶯を見出すような浮遊感がある。選考に携わって下さった先生方、常に見守って下さる先生、先輩へ感謝の気持ちで一杯です。私を信じ励ましてくれる友人、家族に心からありがとう。

 没日に透く身の丈の芒、彷徨う虫、露の斧、忘れられた木霊、埋もれそうな山りんどうの瑠璃。この風景自身が記憶を持っている。煌めくばかりに通り過ぎる時間を捉え、人の儚い想いを汲み上げるーその瞬間を待っている。中也の月夜の釦のように、みすゞの寂しい林檎のように、私は俳句に恋しつづけたい。




   俳句現代 2月号 第1回俳句現代賞佳作第1席☆受賞の言葉  2000
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by minstrel1209 | 2007-01-23 11:31 | essay