Minstrel☆Sanctuary

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kobusi

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by minstrel1209 | 2007-03-31 19:05 | scene

自転


太陽になれぬ木星さへづれり

雛過ぎの雲の奥なる探しもの

さくら飛びだして眺めのいい部屋に

雲雀野のミノタウロスの影を曳く

ぶつかつて鹿の朧となりにけり

春の山自転の音のしてゐたり





河 5月号  2007
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by minstrel1209 | 2007-03-27 21:02 | poem

sakura3

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by minstrel1209 | 2007-03-27 20:59 | scene

sakura2

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by minstrel1209 | 2007-03-21 20:43 | scene

sakura

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by minstrel1209 | 2007-03-20 23:07 | scene

水晶

 
春泥を大きく跳んで迷ひ込む

薄氷のくらげのやうなふたりかな

蛇穴を出て惑星の水を呑む

青空に触れつつ雛流しけり

うちかさなりてはくもくれんの青

壁といふ壁の無くなり燕来る

靴放りなげてロミオの謝肉祭

わが内のさくらのうねり睡りても

まだ雨に慣れない蝌蚪の国があり

水晶となるまで青き踏んでをり





河4月号  ハルキジム  2007
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by minstrel1209 | 2007-03-10 19:05 | poem

ほんものの翼



春逝きてしばらく春のとどまれり 角川春樹

 この一編の詩とも調べとも感じられる俳句に遭遇したときのときめきは、今も鮮明な記憶として わたしの心のディスクに保存されている。真っ白な清記用紙の中の五・七・五の極小の世界。けれど、そこから紡ぎ出される心のゆらぎは、まさに去ってゆく春という季節への煌めくばかりの惜別に充ちている。獄中は最大の行だったと語る作者の豊饒の時間がゆるやかに香りたつ。


わが生は阿修羅に似たり曼珠沙華
敗れざる者歳月に火を焚けり

 ずっと天才の苦悩ということを考え続けていた。ゴッホ然り、信長然り。彼らの輝きは星雲と彗星ほどに異なる。心の叫びもまた計り知れない。<敗れざる者>角川春樹は、こう語る。怒りはあっても恨み妬みはないと。なぜなら、憤りには前向きのパワーがあるが、嫉妬はなにも生み出さないから。


十字架のイエスもわれも冬の中

 一瞬、モロー描く荒野のキリストを連想した。永遠に朝の来ない月光の闇を背景に、闇よりも濃い一本のオリーブの木。その十字架のようなシルエットの根元に横たわる一人の男。その淵には、紛れもない人間イエスの絶望と、神の子の使命感という名の孤独が明滅する。
 

イカロスのごとく地に落つ晩夏光

少年イカロスの翼は哀しいことに蠟で固めた羽根だった。彼の父ダイダロスは告げる。「あまり低く飛ぶと海のしぶきで翼が重くなるし、あまり高く飛ぶと太陽の熱で翼が溶けてしまうから」と。翼を失ったイカロスの傷みが夏の終わりの光の中に突き刺さる。


そこにあるすすきが遠し檻の中

 この一句ほど獄中の作者の胸中を象徴し暗示するものはないだろう。悲歎、無念、慟哭、憧憬、あらゆる想いがほとばしり渦巻いて、心がちぎれそうに切なくなる。


極寒の星より人の堕ちにけり

 この星は、神の蠍に襲われたという狩人オリオンの青ざめた燐光なのかもしれない。天からまっすぐ堕ちてくる叫びさえ凍てつく夜。


秋螢闇より黒き手が摑む

 悪夢のごときブラックホールの真闇。底知れぬ怖さが迫る。肉体も精神もぎりぎりのところまで追い込まれた息詰まる刹那。
 「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ」カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川のひととこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。
         宮澤賢治『銀河鉄道の夜』


たましひのはたしてあそぶ枯野かな

 一転、枯野の天上の草原のごとく、透きとおったこの明るさはどうだろう。すべてが潔く枯れ果てて、もう枯れる一本の草とてどこにもない。なのに、まことに喉の渇きは癒され、どこまでも澄みきっている。流れてきてはまた流れていく光のシンフォニー。


うつくしき冬空なりし鉄格子

 春樹先生からご指導いただく折々に感じること。それは一番に純粋性。それもとことん。磨きたてのダイヤモンド。スミソニアン博物館ですら所有し得ないほどの大きくて無垢な。冬の鉄格子からナイフで切り取った真青な空は、バッハのアリアのように潔癖。


一昨日の雪まだ消えず西行忌

 人間としての純粋さと師としての繊細かつ温かいまなざしの前に、ちっぽけな疑問や葛藤は春の雪のように解け去ってしまう。心が浄化されていく不可思議。このきさらぎの西行の消え残る雪に、ぬくもりを感じるのはわたしだけだろうか。


獄を出て時雨の中を帰りけり

 この日の時雨を作者はきっと忘れない。時雨という日本語の美しさにさりげなく込められた万感が胸を打つ。


雪となる雨を見てをり実朝忌

 承久元年、公暁によって暗殺された源実朝に対する作者の思い入れはことさら深い。やがて雪へ変わろうとする冷たい雨が、おそらくは海に降りしきっているのだろう。悲劇の生涯への共感がひたひたと打ち寄せる。


笹鳴と思えしこゑを実朝忌

 同じ実朝への傾斜ながら、獄を出てからの作品。笹鳴の明るい日だまりが零れる。


初さくらいつか遠くで君に逢ふ
桐の花しづかに坂の暮れゆけり

 存在が大きければ大きいほど、月日の巡りにつれて悲しみが深まってゆく人の死。花は変わらず咲き継ぐけれど、今年と同じその花にはもう二度と逢えない。流れゆく水に、いのちあるものすべての営みに気づいてしまったら。だから、たった一枝の初々しいさくらに、夕暮れの桐の木に、限りなく温かいまなざしを注がずにはいられない。


釈迦牟尼の足裏に夏の来たりけり
わが肩を蜘蛛に貸したる檻の中

 <檻>の中という想像を絶する行の果てに辿り着いた境地。瞬きを永遠のタペストリーへ織り上げて、解き放たれる魂の行方は。空の奥には何がある。星の奥には何がある。山の奥には櫻の木。蠟で固めた仮の翼ではなく、本物の天馬の翼を羽ばたかせて、俳人角川春樹のはるかな飛翔の響きが聴こえる。


一本の木がありそこに春があり
ひとり来てふたりとなりし春の暮 

                          


河 4月号  角川春樹句集『檻』鑑賞  1996
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by minstrel1209 | 2007-03-08 16:09 | review